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アヒルが、ガーガー

つめたく、つめたく。

この一年、よく格闘ゲームの動画や試合の様子をよく観ている。特に観ているのは、あまり詳しくない方でも一度は名前を聞いたことがあるのではないかと思われる『ストリートファイター』という格闘ゲームだ。

格闘ゲームには、人と人が相対して競い合うことの、さまざまな面白さが詰まっていると僕は感じている。攻防の駆け引き、ルールやキャラクターの性能といったどうしようもない規定との関わり、精神的な揺らぎがプレーに反映されてしまう心理戦の様相、などなど。

そんななかで、最近「マゴ (@magotto3)」というプレーヤーが、控えている大会で彼が競い合う可能性の高い「ラシード」というキャラクターに対して、どのような対策を講じればよいのかというテーマの動画配信を観る機会があった。

TOPANGA TV | OPENREC.tv

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画面左から、マゴさん・ふ〜ど氏・ときどさん。いずれも強豪格闘ゲーマーたち。

マゴさんのプレイに対して、放送内でアドバイスをするのは、プロプレーヤーの「ふ〜ど (@hashibirofood)」選手。ラシード対策についてふ〜ど氏がマゴさんへアドバイスするなか、何度も発言していた表現がある。それは「つめたく、つめたく」という言葉。これを聞いていて、なぜか色々な考えを巡らせることになった。今回はその話をしてみたい。

ラシードというキャラクターは、大振りのパンチやキック、嵐を巻き起こす飛び道具などで、相手のキャラクターの位置を大きく動かせることが特徴。その特徴は見た目からも分かりやすいので、素人ながらも理解することができる。

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画面左に映る、嵐を巻き起こすアラビアンなキャラクターがラシード。この嵐は飛び越して回避することはできず、相手側へどんどんと迫ってくる。

ストリートファイターという格闘ゲームは、キャラクター同士が戦っているフィールド(要は表示画面)の左右に、それ以上は画面がスクロールしない壁(限界点)がある。これを「画面端」というのだが、ラシードは相手キャラを画面端へ割と容易く追いやることが可能な点が、キャラクターとしての大きな強みだと言える。

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ラシードが相手キャラを画面端へ押し込んでいく一例。力強い圧迫に、相手はふっ飛ばされる。

一般的に、画面端を背負わされているキャラクターは、相手よりも不利な状況になることが多い。それは、壁を背負い相手に迫られ、前後の逃げ道が絶たれてしまう状況で、相手の攻撃を耐え忍び、なんとか画面中央側へ自分の位置を押し戻すことが、そう容易いことではないからだ。よって、画面端へと相手を追いやって、自分に有利な局面を生むことが得意なラシード(しかもラシードは一度画面端に追い詰めると、そこからなかなか抜け出させてくれない)へ対抗するには、できるだけ画面端に追い詰められないよう対処することが、他キャラクターに比べても重要だと言える。

いっぽう、こちら側(マゴさんが操作するキャラクターの意)がラシードを画面端へ追いやったときに「よし、有利な局面になったから、どんどん相手との距離を詰めて攻め込もう」としたくなるのは当然のことのように思える。特にマゴさんが操作する「かりん」というキャラクターは、近接戦で強い攻撃を打ち込むタイプだから、相手へ近づき攻撃のラッシュを掛けたくなる気持ちになりやすい。だがそうして攻め急ぐと、残念ながら手痛いリターンを食らってしまう事態を生んでしまいやすい。

それはなぜかと言えば、ラシードというキャラクターは、もうひとつの大きな特徴として、自分が画面端に追いやられても、端から逃げ出せる選択肢を数多く持っているから。なので、端へ端へと攻め急いでいる最中にスルッとそこから逃げ出され、気づけば今度はこちら側が端を背負わされてしまうリスクが対ラシード戦においては高く、このリスクをいかに低減するかが、放送内でも大きな課題として取り上げられた。

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たとえばラシードは画面端の壁を三角飛びできる。壁を蹴り飛ばして相手の頭上を飛び越すことが容易い。

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そして左右の位置は裏返され、またしても相手は画面端へ追いやられる。

そこでふ〜ど氏から出てきたのが「つめたく、つめたく」という言葉だった。

前述の通り、こちら側にとって有利な局面、画面端へ相手を追い詰めることができたのなら、それ見たことかと「いかに相手ダメージを稼げるか」を目的に、強く攻め込んでしまいたくなる。かりん使いであればなおさらだ。だが、画面端に近いところで攻防を展開してしまうと、ラシードに端から逃げられて局面を一気にひっくり返されてしまうという大きなリスクを背負っていることになる。

ならば、急いで端へ端へとラシードを追いやるより、ラシードとの距離をある程度空けて壁際でラシードを泳がせておきつつ、近づいたり離れたりを繰り返しながら、大きなコンボ(攻撃の連鎖)を繰り出せる隙をうかがうほうが賢い、というのがふ〜ど氏のアドバイス内容だった。

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画面端に相手(と、自分を)押し込みすぎず、一定の間隔を取って相手の動作に対応することを、攻め込むことよりも優先。

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たとえばラシードが飛び越えようとジャンプをしてくるようなら……

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対空技(かりんの場合はEX烈殲破という攻撃が有効)で対応し、ダメージを与えつつ、再びラシードを画面端へと追いやるのが賢明。

ラシードの近距離で、その一挙手一投足に対応しながら攻撃を試みるのではなく、ある程度距離(間隔)を取って、相手の動きを観察しながら、リスクを背負わず攻撃の機会を探すほうがベターである。このことを、ふ〜ど氏は「つめたく、つめたく(相手の挙動に付き合いすぎるな)」と、表現していたのだ。好機へ急ぐな、相手をつめたくあしらえ、と。

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ここからが完全に論理の飛躍なのだが、毎日生活していたり、仕事をしていたり、いろんなことを考えて悩んで生きているなかで、つい(良い方向にも悪い方向にも)思い詰めてしまうタイミングというのが僕にはよく訪れる。

たとえば「もうダメだ、こんな自分なんて存在していていいのか?」というケースもあるし、逆に「今すごく調子が良いから、ガッツリがんばるべきやろ!」というようなケースもある。どちらにしても、自分を追い詰めているという意味では、方向性は違えど似たようなものだと思う。

そのときに自分へ「つめたく、つめたく」応対できる自分を、どこかで保持しておくことが大切なんじゃないかと、ふ〜ど氏の表現から感じた。思い詰めようと、ある意味で自らへ攻め込もうとする自分からうまく距離を取って、近づいたり離れたりを繰り返しながら、リスクを低減させつつ、生活への地に足の着いた寄与を見出だせるならば、それはひとつ「賢くなった」あるいは「大人になった」と言えるのではないか。などというふうに、論理を飛躍させてしまったりする。

「自分がやや上向きに(あるいは下向きに)ヒートアップしてしまってるな」と思うときこそ、声に出して「つめたく、つめたく」自分に向き合えるようにしてみたい。好機へ急ぐな、自分をつめたくあしらえ、と。そんなことを格闘ゲームを観ながら考える、早秋の一日なのでした。

何を書いているんだろう。でも、マゴさんもふ〜ど氏もすごく魅力と特徴あるプレーヤーだし、ほかにもたくさんの個性的なプレーヤーが、個性的なキャラクターを用いて技を磨いています。ご興味ない方も、ここ最近は毎週末大会が世界中で開かれていて、その様子をストリーミング中継で観ることができるので、ぜひ観てみていただきたいです。